犬の動脈管開存症

犬の動脈管開存症とは

犬の先天性心疾患の中で最も多いのが動脈管開存症です。動脈管とは胎生期に胎盤を介して酸素化された血液を左肺動脈から下行大動脈へと送る、胎児循環の維持に不可欠な血管です。出生後の呼吸開始に伴い動脈管は閉鎖していき、生後7~10日後には完全閉鎖が起こります。動脈管の閉鎖が十分にされなかった場合に動脈管開存症と診断されます。

犬の動脈管開存症イメージ

動脈管開存症の犬では大動脈から動脈管を介し肺動脈へと血液が流れるため、肺の循環血液量が増加、その結果左心系に負担がかかり、左心不全にまで至ることがあります(左-右短絡)。肺血管への負荷が続くと、肺高血圧症に至ります。肺高血圧症により動脈管を介する血流が肺動脈から大動脈へと逆転することもあります(右-左短絡)。

犬の動脈管開存症イメージ

シグナルメント・症状

動脈管開存症は先天性心疾患の中で唯一性差が報告されており、雌に多いことが知られています。チワワ、トイプードルなど飼育頭数の多い犬種での発生報告が多く、遺伝性要因が関与していると考えられています。

左-右短絡の場合は7割が無症状であり、ワクチン接種での来院時に聴診で心雑音が認められたことをきっかけに診断に至るケースが多いです。右-左短絡の場合は運動時の後肢の虚脱や運動不耐性を認める場合が多いです。

診断

身体検査

聴診において、心基底部を最強点とする連続性心雑音が比較的容易に聴取されます。右-左短絡の症例では後半身にのみ低酸素血症が生じる解離性チアノーゼが認められることがあります。

胸部X線検査

左心房および左心室の拡大、肺血管陰影の増強が認められることがあります。

心臓超音波検査

右傍胸骨短軸心基底部レベルにおいて、肺動脈内に流入する連続性のモザイクシグナルが特徴的な所見として得られます。

治療

動脈管開存症は診断後の早期の動脈管の閉鎖が推奨される疾患です。閉鎖をしない場合には多くは1年以内に心不全を発症すると言われています。閉鎖の有無で生存期間に顕著な差が生じると報告があります。

動脈管の閉鎖には開胸下での結紮術あるいはカテーテルを用いたコイル塞栓術が挙げられます。コイル塞栓術では、大腿動脈からカテーテルを挿入し、カテーテルをガイドにしてコイルを動脈管まで到達、動脈管を塞栓します。本院では開胸下での動脈管閉鎖術を実施しており、肋間開胸にてアプローチを行い、結紮糸を用いて直接動脈管を結紮します。

動脈管開存症の症例紹介

犬種:雑種 (トイプードル×マルチーズ)
年齢:0歳3ヶ月齢 (本院での初診時)
性別:雌
体重:1.14kg

他院でワクチン接種を行った際の身体検査にて先天性心疾患の可能性を指摘され本院を受診しました。この症例では日常生活での異常は認めませんでした。本院での身体検査では聴診にて犬の動脈管開存症に特徴的な連続性心雑音を認めました。胸部X線検査で左心房拡大が認められました。

動脈管開存症の症例01 画像1

心臓超音波検査では動脈管開存症に特徴的な波形が認められました。

動脈管開存症の症例01 画像4

手術では左第4肋間開胸にて動脈管へとアプローチを行いました。心臓の傍を通る反回喉頭神経の損傷を防ぐため、神経に糸をかけて牽引しながら手術操作を行いました。

動脈管開存症の症例01 画像3

動脈管の露出が完了したら糸で結紮し閉鎖しました。

動脈管開存症の症例01 画像5

術後は胸腔内にチューブを設置し、手術を終えました。
若齢の場合、動脈管周囲の組織が柔らかく、より安全に手術を行うことができるため、今回の症例の様に診断後には早期に手術を行うことを推奨しています。

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