犬の前腕において橈骨と尺骨は前足の肘から手首までを構成している骨です。
この部位での骨折は最も遭遇する機会の多い骨折です。
原因としては、抱っこしていた際に転落してしまう事故やソファやベッドから飛び降りた際にも発生することが多く、元気で活発な若齢犬での受傷が目立ちます。
骨折を放置すると癒合不全が起こり体重を乗せて立つことが難しくなるので早期の整復と固定が必要となります。
骨折部位がズレて変位してしまっている症例では手術での整復とインプラントによる固定が必要となります。
また骨膜という骨の表面の小さな血流を阻害してしまうと手術後の癒合不全など合併症が発生するため治療法の選択も重要となります。
ことにトイ犬種での橈尺骨骨折は細く小さな骨での骨折であることや手根関節(手首の関節)に近いところで骨折が発生しやすいため骨折の整復には苦労することが多いです。
骨折部位の固定方法として手術によるものが内固定、創外固定といった方法があります。ギプスのみでの固定は骨折が橈骨、尺骨のどちらかのみの場合に実施します。
プレートやその固定方法も日々進化しており、当院では主にLCPロッキングコンプレッションプレート(Synthes社)を用いた整復術を行うことが多いです。このインプラントは骨折部位に設置する際にプレートとスクリューが一体化することで強固で安全な固定力を得ることができる優れものです。
また大型な症例から小さな症例のそれぞれの骨の太さや部位に合わせてインプラントも多くの種類が用意されています。
当院では小さな犬種にも対応できるように最近開発されたインプラントも用意しています。
この症例はトイプードルで14ヶ月齢の時に1m程度の高さからの落下事故により骨折をした症例です。手術により骨折部位の整復とインプラントの設置を行いました。手術のあと数日は手術部位の腫れの予防のために圧迫包帯法を用いましたが、その後は包帯を解除して自宅での療養となり、治癒過程を定期的にレントゲン検査や歩き方のチェックを行いました。現在は完治し、快活な生活を送っています。